インストラクションと物語の授業の目的について

ある授業を参観しました.「サーカスのライオン」を題材にした「感想を伝え合おう」の単元です.1時間目は,図書館司書によるブックトークと「サーカスのライオン」の読み聞かせ,初発の感想を書くという活動内容でした.
 先生・司書お二人の話ぶりを見て感じたのは,お二人とも「ノイズが少ないなあ」ということです.私は話をするときに,「え〜」とか,「あの〜」とか雑音を入れてしまったり,「あと〜」,「あっ,それと〜」「いや,やっぱり〜」など付け加えや言い換えなど,聞いている人が混乱してしまう様な情報を入れてしまったりしまいます.しかし,お二人ともその様な「ノイズ」が少なく,聞きやすい話し方だなあと感激しました.
 私は話がド下手なので,「ノイズ」を減らそうと心がけています.ド下手からは少し良くなったとは思っているのですが,道はまだまだ遠いです・・・.

1,インストラクションについて(インストラクション…辞書では「教示。指示。」)
 授業は先生による読書の「価値のインストラクション」から入りました.そのインストラクションを聞きながら,「石川晋さんの記事(「学びのしかけプロジェクト」というメルマガ)を引用している岩瀬さん記事」をちょうど最近読んでいて,そのことを思い出しました.(引用は岩瀬さんの記事から)
(引用開始)
「活動中心の授業」では、学習のフレームがしっかりしていれば、フレームに寄りかかって授業はそれなりに進んでいく。しかし、実際には気付きが少なく、学びも小さいということが頻繁に起こる。この理由は「説明」の不足にあると考える。子供たちが本気で学習するという場所に立たないのである。(中略)
 従来から重視されてきた「説明」は、「方法の説明」が中心であったと考えている。せいぜい、授業者の「意図の説明」までであったように思う。それももちろん大切だが、今、より重要なのは、「価値の説明」だろう。先生の用意した流れの通りにやっていけばやがてわかるというのではなく、この学習方法、この学習内容、この教材が、なぜ学ぶ必要のあることなのか、それを学ぶことが、学習者にとって(学習者の人生にとって)どんな意義や意味があるのかを、本気で、出来る限りわかりやすく、学習者に「説明」するということになるだろう。
「学び」を、出来る限り本物、実質に近付けていくことに、教師が腐心しなければならない時代が来ていると考える。(引用終わり)



 石川さんは,授業のインスタントラクションを「方法」・「意図」・「価値」の3つに分けて説明しています。


□方法のインストラクション…活動の枠組みの説明・指示。活動の手順、時間、道具などを伝える。
□意図のインストラクション…活動の目的を説明すること。何のためにこの活動をするのか、学級全体で目的を共有することがねらい。
□価値のインストラクション…その活動をすることの価値を説明すること。
(石川晋『対話があふれる!国語授業言語活動アイディア42』(明治図書))


 インストラクションでは教師の一方的な指示・説明の範囲に留まることなく、子どもたちとの合意形成を目指していきます。方法の合意形成がなければ、協働的な学習が成立しないのは勿論ですが、活動することの意図や価値を子どもたちと合意形成しているかどうかが、協働的な学習の質に違いを生むのだと私は思っています。


2,ブックトークと読み聞かせから考えたこと
 司書さんのブックトークを子どもたちは食い入るように聞いていました.司書さんが本の紹介を始めるとシーンとなって話を聞き,本の核心に触れ始めると子どもたちから,「へ〜」「お〜」「おもしろそう〜」と歓声が上がります.隣同士でこそこそと話す姿も.司書さんのブックトークによって子どもたちの本の世界への関心が高まっていくのを感じます.
 ブックトークが終わると,いよいよ「サーカスのライオン」の読み聞かせ.司書さんが本を開くと子どもたちは絵本の世界へ引き込まれていきます.もちろん,途中で世界から抜け出す子が数名いますが,それは当然のことだし,安心して抜け出せる雰囲気がそこにはあります.
 司書さんの読み聞かせは,読み手の「読み」を押し付けない,聞き手それぞれの「読み」を保証する読みです.読み聞かせの読み方にもノイズがなく,聞き手がすっと物語に入っていける素敵な読み方だなと「サーカスのライオン」の世界に入りながら聞き惚れていました.
 授業後,元気な男の子たちが虫取りに出てきました.教室には女の子がちらほら.その中で二つグループがブックトークで紹介してもらった本を開いていました.一つは絵本を最初から読み,もう一つは,「あのブックトークの続きの展開はどうなんだろう」と話しながら本を開いていました.
 この光景を見ながら,私は「国語の授業の,国語の物語の授業の目的ってなんだろう・・・」と考えました.
 国語の物語の授業というと,何時間も主人公の気持ちについて考えたり,物語の主題を追求したりというような活動が主流だったと思います.また,最近では「単元を貫く言語活動」がキーワードとなった単元デザインが開発されてきています.でも,その先にあるのは何でしょうか.案外と私たち教師は,この先の子どもたちの姿を思い描かずに授業を行ってしまっているのではないかと自省を込めて思います.

授業後の本を開く女の子たちの姿を見て,これだよなあと改めて気づかされました.授業を超えて読書をする姿,仲間と本について語り合う姿,そして,学校教育を終えても本に親しみ,知の世界へとつながる喜びを感じることができる姿,こんな子どもたちを自分は育ててくることができたのだろうかと.
大切なことを3年生に教えられた1時間でした.