2月25日 『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学』 渡辺弥生 光文社新書

 
読もう,読もうと思っていた発達心理学.ちょうど長男(9)周辺の発達に注目した本があったのでこの本を選んだ.長男のことを投影しながら読んだ.
 本の要旨は次の通りである.
・「10歳の壁」とはよく言われているが,それには科学的な根拠がないということ.
・一方,この時期は発達心理学の中では大きな変化がみられる時であり,この時期への理解と,適切なサポートをしていくことが,子どもたちの成長には大切であるということ.
ソーシャルスキルレーニングなどの方法で発達をサポートする.

○「自分」の発達における9歳,10歳
・他人を自分のことのように考えたり,他人の心を行動から予測したりすることができるようになる.つまり,人の行動の背景にある,感情や考え方まで想像することができるようになる.
・自分に対しても,他人から見るような視点の取り方ができるようになり,自分のだめなところを客観的に見られるようになる.
・上記2点を受けて,劣等感が強まり,自尊心が下がる.ただし,領域など複数の視点で見ることができるようになるため,「算数はいいけど,スポーツはダメ」などの見方,「先週はダメだけど,今週はいい」という見方ができるようになる.
・自分の性について関係の中で捉えることができる.親だけでなく,様々な人からの評価の影響を受けて,行動も規定される.

○「認識」の発達における9歳,10歳
・自分と他人,主観的な自分と客観視できる自分,時間の軸の中での今の自分と未来の自分など物事を相対化させてみるといった高次の認識が可能
・質的な変化が,スムーズに移行できる人と,停滞してしまう人に分かれやすく,全体的に不安的になる時期.そのために,認識の枠組みがステップアップできるように,適切な支援が必要な時である

○感情の発達における9歳,10歳
・「感情」というのものを対象化して考えられるようになり,それを文章や会話の中でも表現できるようになる.
・肯定的な感情と否定的な感情を同時にむつことを自発的に意識できるようなり,さらにそれはおかいしいことではないと認識できる.
・間接的な表現から相手の気持ちを汲むなどもできるようになる.
・自意識過剰になる傾向が強くなるため,傷付くのを恐れて感情を抑えたり,逆にコントロールできない状況も出てくる.

○友達関係における9歳,10歳
・親の言うことに従うべきだという考えが弱まり,友達との友情が強くなる時期.
・好きな友達のためになんとかしたいという思いやりが強まる一方,友達の目が気になる時期.
・経験の中で適切なソーシャルスキルを学ばせながら,互いにサポートしあうことができるように支援していくことが大切.

○道徳性の発達における9歳,10歳
・自分以外の立場に立てるようになり,第三者や集団,社会といった視点も理解できるようになる.
・公平や権威といった概念の背景にある意味について悟るようになる.
・具体的な能力や貢献度といったことを重視するが,みんなのために考えてくれる人といった公についての理解も深まる.

このような発達の特徴があるという.
そこで,中学年の指導・支援として考えること.
・発達には,個人差があり,その個人差があることを前提とする.
・それぞれの考え方や捉え方を尊重した上で,多様な考えがあることを受け入れられるような支援,ユニークな考え方や見方ができること,考えることの楽しさを伝える.
・役割取得能力を育てる.役割取得能力は,自分の視点や立場だけでなく,他人の視点や立場に立つ練習で培われる.
・親として,教師としての期待を満たすためではなく,子ども自身が親や教師とは独立した人間として成長していくことが大切.だからこそ,まずは,目の前の子ども自身の成長を良く見る.教師としては,一人一人の成長の物語を見取る姿勢が大切.
・子供達は大人を抜きたいと成長する時期であるが,実際にはさまざまなジレンマや葛藤を抱えていて,まだまだ自力で乗りこえることは難しく,少し後ろから背中を押してもらったり,時には親や教師の後ろに下がりつつも,次への飛躍に備えるような時期でもある.
・社会性と道徳性の双方をバランス良く育てる.(仲間関係をうまく結べることができるが,外集団の子をいじめたり,道徳的には厳しく自分を律することができても他人とは上手く関われないという子がいる.)

こうまとめてみると,他者との関わりを多様に持つこと,そしてその中で学んでいくことが重要であると思えてくる.多様な関わり合いをすることができる活動,そしてその中で他者の気持ちや考えを尊重しながら,合意形成をはかる経験が必要だなと思う.協同的な学習,道徳,特別活動,そして,様々な学習や体験活動を通して感性や情緒を育てていくことが大切.そして,教師や親の思いの押し付けではなく,失敗オッケーの自己選択・自己決定の場の保証をすること.こういう考え方を親として,教師として持ちたいものだなあ.